Nagisa Nakauchi

中内渚 古本画家 / 旅行記作家

ABOUT

私は小さい頃南米に育ち、隔年で親に連れられヨーロッパを放浪するなど、
気づけば異文化の風に様々に吹かれてきました。

その異文化の中で心を鷲掴みしてきた数々のカルチャーショックや人との触れ合い、温かさ、喜び、想像もしなかった美しいものたちとの出会いと憧れ‥このたくさんの溢れる感情が行き場を求めて行った先に、
自然といつも、スケッチブックがありました。

私にとって絵とは、その溢れる心が結実したもの。
描くことで私はこの感情を取り込み消化することができ、
そしてかけがえのない「今この瞬間」を永遠のものにできるのです。

そしてなんといっても。
「この旅先の感動を分かち合って、一緒に喜び合いたい」
という感情がなぜか小さい頃から私の中心に強烈に、しっかりとあり続けて、
今も泉のようにこんこんと湧き出るのです。
結実した「今」を、「絵に閉じ込めたこの世の美しさ」を分かち合い続けたい。

いつまでも変わらず私の源であり、すべてを生み出す最大の原動力です。

どの絵も、高揚する心とトキめき、あらゆる美しい感情が織り交ざって出来上がっています。
ぜひお一人お一人の方にとって、
幸せな何かを引き出す存在となれればと願っております。



キャンバスは、「古書」

私の絵の特徴は、
「古書をキャンバスにしていること」。
ものにもよりますが100年、
古いものでは200年前の本の上に描いています。

よくわからない、と言われることがあるのですが、
つまりはこういうことです。

本のページを開くと、そこには中表紙がありますよね?

そこにはタイトル、著者名、出版社名などが印刷されているわけですが、その周りはたいてい余白になっています。
その余白のところを生かし、またタイトルなどの文字も生かしながら、絵を描き込んでいるのです。


タイトルなどの文字も当時の書体で、
紙も時代の経過を吸い込みなめらかなクリーム色です。
本当に美しい。

そこにインスパイヤーされ、その紙自体や文字や風合いにしっくりするバランスを探り、
絵は導かれるように自然と出来上がっていきます。

「最初から絵があるのかと思っていた」というご意見も多いのですが、
絵の部分は後で描きこんだもので、
文字などは最初から本に印刷されていたものになります。

中表紙だけでなく、短編のタイトルや「第○章」などと書かれているページ、詩のページなどにも描いています。

 

ページに印刷されている文字や文に対して、
いかに美しく配置するか、そのページをどう調理するか、
どんな新しい美へ作り変えどう昇華するか、そういう部分が最大の醍醐味。

なぜか古書はいつも私が思っている以上の絵を生み出してくれて、
結果的に自分でも驚くような、期待以上のものが出来上がります。
不思議でもありますし、冒険のようでもあります。

今や自分が描いているのか、古書の魔法で絵が進むのか、わからないくらいです。

「なぜ古書?」

さていつもスケッチ旅といえば、真っ先に旅先の蚤の市へ直行しています。
もしくは、古本屋街。
そこで古書をたくさん買い集めて、それを持って旅に出る。それが私の旅です。

私は異国で出合った古書にその旅先を描き込み、
シリーズとして持ち帰り個展をする日々を過ごしています。


古書に絵を描く私ですが、なぜ古書なのか?
そのきっかけは2000年頃まで遡ります。

その頃語学留学中だったのですが、
なぜかどんどん絵が描けなくなってゆき、とうとう2年のスランプに陥っていました。

真っさらな、完全に自由な白い紙を前にすると、
自由過ぎることが怖くなり、ただただ為すすべもなく…。
そんな時に通りがかったのが古書街でした。

なにとはなしに手にとった本の中表紙にはタイトルや著者名と余白があり、
私はこう思ったのです。
「初めから印刷されていて構図が決まっていれば、描くのが怖くないのではないか」

結果、そこには本当に驚きの奇跡が。

スランプがまったくの嘘のように
古書に描く間だけ調子は元に戻り、
いやそれどころかそれ以上に上回る抜群の調子の良さ。

出来上がったものは未だかつて考えられないほど好ましく
抜きんでていて、ただもう大興奮なのでした。
(↑その初めて古書に描いた絵がこちら。そして右下の絵)

古書だとどんなモチーフを前にしても、すべてが予想以上の仕上がり。

はっきりと調子が戻って、スランプ前の絶好調の時期を越えて絶好調。
まるで何かに憑りつかれたみたい。
そして「はじめにある構図に私の絵で構図を再構築する」
その創作がすべてを良い形で引き出してくれました。

そしてきっと紙のざらつき、厚み、ペンの乗り、書体や紙の持つ空気感、すべてが私とぴたりと来ているのでしょうね。

 

それ以来、基本的に私は旅先の古書を手に入れ、その土地で描いています。
(最近は、溜めておいた古書を持って旅に出たりもします)

何よりも、私は古書やその紙自体を愛してやみません。
この風合い、書体、長きにわたる歴史を吸った遺物として。
ここに描くのが純粋になによりも美しいと思う。

そして最高の、ある高みのポイントに向けて
しっかりと絵を導く手応えと感触を感じさせてくれる。
古書はあらゆる面からインスパイヤーしてくれているようです。

そしてなぜか思いつく限り最高の絵を私にもたらし、 私を突き動かす神秘の素材。
それが古書です。

今となってはこの出会いは必然で、
スランプは運命のギフトだったと思っています。

まるで古書と引き合わせるためかのように、
その時期だけスランプがやって来て、そして去っていきました。
(左の絵は1800年頃の古書)


Q&A

Q. 何を使ってどのように描いているのですか?

A. まずはペンで線画を描きます。

これまではパイロットのボールペンで描いていたのですが、
幸か不幸か性能がどんどん上がり続け、
ついに使うのをやめました。

ダマも決してできたりせず、
一定の線をどこまでも描き続ける、
それは普通のボールペンとしてはありがたいことなのですが、
絵を描く上では私としては可能性が狭まってあまり面白くない。

紙の上でかすれさせたり、見えないくらいの霞のようなものを描いたり、細かったり太かったり、むしろダマを作れる方が表現は広がります。

となるとちょっと性能の悪い、昔ながらのボールペンの方がよくて、
今私が使っているのは、docomoのノベルティーグッズのボールペン。
無料で配布されていたアレです。

正直、これじゃなくちゃ描けないと思うほど
私にとってはどんぴしゃに素晴らしく、
古書との相性もうっとりするほど素晴らしい。

このボールペンなら
どこまでもどこまでも描いていけそうです。
買いに行けないのが難点ですが。

さて描く時はというと、下書きはせず常に一発本番。

スケッチ旅行で培ってきた、現地での臨場感を感じ、
勢いと現場の感覚を大切にする描き方です。
迷った線も、私にとってはそのモチーフとの対話の一部。
ちなみにほとんどの絵が現場で直接モチーフに相対して描いたものです。


下書きをすると、一旦描いてある分、
気持ちがだらけてしまうように感じます。

既に描いてあるものに何かが頼ろうとしてしまって、
「今ここで、モチーフのきらめきを描きとる」という意志が緩んでしまう。

そういう瞬発力と、「今」を絵に結晶化させる力を磨くためにも、
ペンで一発本番で描くのが私はおすすめです。

ペンの後は水彩絵の具(Holbein)で着色。
油絵の具のように粘度たっぷりめで塗りつけたり、
薄めに塗るなど変化をつけ、しっかりと塗り込みます。

その際に私がやるのは、
まずはうっすらと全体に下塗りすることではなく、
こちらも一発本番で塗り込むこと。


最初に塗り始めるところから、
もう最終形の色を選び取って塗ります。
次に塗る際には仕上げ、というくらいに。
「この色!」としっかり、
目指している色を迷わず塗っています。

塗る際にはあちこちを様々に塗りながら進めるよりは、
まずは絵の中で集中して一箇所ここ、と決めたところの「魅力」のようなものを
築き上げてから、その隣り、その周り、といった感じで塗る範囲を徐々に広げていきます。

今一番輝けるモチーフの状態を絵にするために、
まずは集中して輝きを一度しっかり形にしていきたいんですね。

 

「ここを絵にしたくて描いた」と思う、絵の中でもポイントとなる部分をまず重点的に塗るのがまず大事。

その良いところは、いつも絵の核となる部分をフレッシュに描いているので、
その嬉しく湧き上がる気持ちがそのまま盛り上がるまま全体に波及していくところですね。

とんでもなく美しいモチーフに出合った喜び、
それをひとつひとつ絵に載せていける幸せ、
そのすべてをまるごと絵に載せながら絵は出来上がっていき、
いつでも私の絵は輝くような喜びでいっぱいです。

最後の仕上げには、
色えんぴつで濃く濃密に塗り上げることで
深みや濃淡の差を出していき完成です。

塗ると言っても、どこもかしこもではなく、
本当に必要なところだけ。

そうすることで絵の中に様々な質感(水彩の濃淡、色鉛筆の濃淡がそれぞれ混ざった質感)を出し、そのバラエティが自然と奥行きや魅力に繋がります。


私の絵が水彩画でありつつもくっきりとして(ふんわりではなく)はっきりしているのは、
この色鉛筆によってメリハリがついていることによるものです。

たまにはその上に油絵の具を加えるもの(右上の睡蓮の絵)や、
パステルの粉、ガッシュ、ポスターカラー、
アクリル絵の具、顔彩、マニュキア等を使用することも。
様々なものを貼り付けるコラージュを絵に加えるなど(右上の絵)、
既存の「絵画」の枠にはまりたくないと常々思っています。



Q.絵を描くのにどれくらいの時間がかかりますか?

A. 同時進行でいくつかの絵を描いていることが多いため、
正確には把握していないのですが、
小さいものだと最短数日~1、2週間。

最大級のサイズのものは何ヶ月もかかる場合も。
もちろん絵のサイズや細かさや、バランスの取り方やどれほど考え込むかにもよります。

また気持ちが乗らなかったり、
少々距離を置いて冷静になりたい時や仕上げの時は
多少の間眠らせることもあるので
実質必要な時間にさらに時間がかかります。

3、4年絵を眠らせてそのまま忘れ、その後発見してから仕上げた絵なども(右の絵)。

 

パラグアイに住んでいた時には毎日現場へ2週間通い、
その場ですべて仕上げていたんですよ。
(下の絵)しかも40℃の炎天下で‥!

ただ、このペースではひとつの旅に1,2枚しか描けなくなってしまうので今はほとんどがペン画だけ現場で仕上げています。
時間がどんなに足りない場合でも、線1本分は最低でも描くのがすごく大事。
現場での臨場感が載ってくれるのです。

着色もできる部分は現場で塗ります。
でも最近はアトリエの方が集中しやすくなってきました。



Q. スケッチする時の流れは?

A. 旅先で古書を手に入れ、まずは旅をスタートさせます。

モチーフを見つけたら
その場で興奮さめやらぬうちに古書を取り出し、
本にそのまま直接描き込むのが私流。デンマーク、コペンハーゲンにて

モチーフとの出会った時の新鮮な気持ちを削がないため、
あちこちうろつかずにすぐ描き始めます。

もう少し行った先によりいいものがあるかもしれなくても、
まずは最初に見つけた瞬間の感動が一番、何よりも大事。

あちこち見て回って「やっぱりここがよかった」と戻ってきても、
もうそこには以前ほどの旬な気持ちがなくなってしまっているんです。
わぁっと心が湧く感覚はその時に絵にしてしまいます。


古書のどのページに描くかは、
まず中表紙など文字と余白のバランスや紙の感触やモチーフとの兼ね合いを見て決めるのですが、これはモチーフとページが引きつけ合うのをよく見極めます。
大体はこれ、という1ページが見つかるものです。

ペン画が終わるとそのまま見ていた角度で写真を撮っておきます。
時間と体力と気力に余裕がある時には、その場で着色。

南米ではよく地元の人たちがイスを貸してくれたりなど、
いつのまにか地元の人たちに居心地よく溶け込んだり紛れて絵を描いていたり。
(だんだん警戒されなくなっていくのがスケッチのいいところ)

帰国後は写真など参考に着色に本腰を入れます。
今では帰国後の方が落ち着いてモチーフと冷静に向かうことができるような気がしています。

ちなみに絵が完成した後は、個展。
絵が額に入るのは大抵個展の直前。
最後のぎりぎりまでは絵はまっさらなままで保存されます。(左下の写真)

2013年伊勢丹個展用の絵
絵が額に入り、テーマに合わせ一斉に飾られるのは個展の時のみ。
その後は仕舞われます。
ぜひぜひ個展のチャンスには生で見に来てくださいね!

 


古書について

古書選びには私なりの選び方があります。

古書のタイトルなどの内容や書体や醸すものが大事なのはもちろんとして、
まずはペンとの相性が大事です。

厚みがあり弾力の程よい絶妙な加減の本が私の好みです。 一方でつるつるで描きにくいものがかえって新しい描き方や塗り方を生むこともあり、その紙との出合いは真摯に受け止めています。

 

ヨーロッパ、中南米系(ヨーロッパから輸入されたものも多く、似たようなものが揃っています)の本が頑丈で厚みも良く、好きです。 また、国や地域によって古書のサイズや色あいもだいぶ違ってきます。


例えば北欧はクリーム色の白っぽくサイズの大きな本が多いのに対して、中南米は色が濃く焼けやすいものが多い(日照時間も絡んでいるでしょうね‥!)。

フランスではサイズのバラエティも豊かで、華やかでリッチなものが多めです。

ある意味その国らしさを表しているかも。国によっては出版社自体が少なかったり、本を読むという習慣自体がないなど国の事情も絡んでくる面白さがあるんです。

 

その中でもスペイン、バルセロナのドメネク社の本は私にとって特別。 見開きがほぼ正方形のこの本は、必ず描くものを最高の形に高めてくれる何かがあり、この本さえあれば間違いない!というほどです。

最近は、明るい色の古書が好み。文字の具合も大事です。
いずれにせよ古書との出会いがすべてを高めてくれています。

 


古書の文字と(絵の)内容との関連性

「タイトルと絵は何か関連があるんですか?」
これもよく聞かれる質問です。

基本的には古書の文字をひとつの構図の一部と捉えているため、書いている内容とは関係なくデザインからインスパイヤーされて描いています。ただ、関連づけられるものについては絵とリンクさせています。

例えば、コスタリカのイダルゴ家のお花やさんを
「Casta de Hidalgos(イダルゴ家一族)」という本に描くとか。

しんとした静けさを感じた風景に、
「El silencio(静けさ)」というタイトルの本を選んだり。¿Ansias de vida? ¡Qué va! (人生の不安?何言ってんの!)

他にも、「人生の不安」というタイトルに手書きで文字を加え、「¿Ansias de vida? ¡Qué va! (人生の不安?何言ってんの!)」とアレンジして、人生楽しそうにはしゃぐ女の子たちとお祭りを描いたり。

「L’or de la République(共和国の金)」はつまり、
フランスにとっての宝と理解して、たくさんのフランスの誇るスイーツを描き並べてみたりもしました。


「オフィシャル・ウェディング」という本の場合は、「ウェディング」という言葉にちなんで、自分の結婚式・ハネムーンにもその本を持ち歩き、ハネムーン先を描いたりも。

それとか、「jardin(庭)」という単語の入った本にはモネの庭を描きました。

一方で、「Rey en la tumba (墓の中の王)」という本に
クロワッサンを描いてシュールなことにもなったり…。

ひとつひとつの古書のページとモチーフとの出合いはいつも私には新鮮な出合いで、それが楽しみでやめられません。



Q. 絵の金額はいくらくらいですか?

A. 小さいものは2, 3万円のものから、
最大級のものは数十万円ほどです。

平均すると、B5より小さな本のサイズのものが多く、6~10万円のものが多く揃っています。
サイズに合わせてお値段は決まります。

 

またフルオーダーの絵なども承っておりますが、 絵の細かさやサイズやラフさ加減などで様々に予算に合わせることが可能です。小さいもので大体25000円~です。お気軽にお尋ねください。


Q. 絵を飾る時に気を付けることは?

A. 基本的には直射日光を避けるように飾ってください。
一日中日の光が直接当たらないのが理想です。
とはいえ、薄暗い中飾ってしまうと絵の魅力がだいぶ落ちてしまいます。
照明、スポットライトなどを当てて見られるような工夫があれば完璧です。


Q. 今まで旅してきて、どの国が一番好きですか?

A. 私が旅をしたのは西ヨーロッパ、中南米、北アメリカ、アジア諸国と限られているのですが、その中でも一番私の心を鷲づかんで、あらゆる点から好みなのはなんと言ってもメキシコ。

モノが山のように溢れて上からは大量にぶらさがり、迷宮のようなカオスっぷりには心がうずき、止まりません。それに愛らしくキッチュな色彩の渦!
他にもメキシコ人たちの人が大好きなところやオープンさ、明るさ、食事や国のカラフルさ‥
古代文明の途方もない面白さ、考古学の観点からもすばらしい面白さを提供してくれます。

  

他にも‥
・人生のものの見方が変わるほどの旅: マナウスのアマゾン(ブラジル)
・美学を感じる土地・自然や植物にインスパイヤーされる場所: バリ島(インドネシア)
・食事がとにかくおいしかったところ: トルコ、モロッコ、ベトナム
・一生忘れられないおいしいお食事を頂いた場所: マナウスのアマゾン(ブラジル)
・行ってみたら予想をはるかに超えてよかった町: アテネ(ギリシャ)
・総合して住みたい、気持ちのよい土地: バルセロナ(スペイン)
・人生楽しそう、と思う人々:アルゼンチン人、メキシコ人
・服を買うなら:韓国
・あまりピンと来なかった土地:タイ、ハワイ
・最悪な扱いを受けた国:モロッコ
・セクハラに遭う確率がとにかく高かった国:(ダントツで)スペイン
・一番多く訪れている場所:バリ島(インドネシア)
・人生一番の絶景:サントリーニ(ギリシャ)
・私の人生が変わった国:アルゼンチン、パラグアイ
・親切にしてくれた国:トルコ、韓国
・町の完成度に驚いた場所:パリ
・近未来都市で驚いた別世界な場所:カタール
・言葉がわからなくても、日本人の感覚で心が通じ合えた国:ベトナム、韓国
・はにかみ度が高かった国:パラグアイ、ベトナム
・行ってみると、想像していたよりずっと近代的で驚いた国:チリ(の首都)、カタール
・スリに狙われた印象の強い場所:アテネ、ローマ、マドリード
・結局一番陽気な人達:アルゼンチン人
・世の智慧が終結する国:インド

 

絵に関するご質問、ご相談、個展のご案内をご希望の方はお気軽にメールください
>>> CONTACT